北海道の酪農コンサルタント 鈴木技術士事務所が運営しています。
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Q1 個体乳量を追い求めると牛に障害が出て、能力のある牛から淘汰されるので、ほどほどの乳量で良いと思っています。また粗飼料を主体に濃厚飼料をできるだけ減らした給与をした方が、牛は健康で長持ちすると思っていますが、どう思いますか?
A1 ほどほどの乳量と粗飼料主体給与の考えはよく聞きます。これらは間違ったことだとは思っていません。現在の出荷乳量で十分所得が得られ、畜舎改造や将来的な建て替え、機械の導入、定期的な草地更新等ができているのであれば、それも選択肢でしょう。
様々な地理的条件や経済社会的条件下で畜産農家の皆さんは営農されています。例えば飼料基盤(草地や飼料畑)が限られている場合は集約的な酪農経営が求められ、個体乳量を高めることは経営効率を上げる基本的戦略になります。自給飼料は1頭当たり給与量が減る分、高品質であることが求められ、家畜の健康を維持するためには緻密な栄養管理が求められます。
収穫適期に合わせた高性能な収穫機械での作業や大型サイロによる調製、TMR給与の導入、フリーストール飼養体系は、多頭数飼育でも緻密な栄養管理を実現する根幹技術となっています。
Q2 放牧地では牧草にたくさん水分があるのに、水槽は必要でしょうか。舎飼いと比べて放牧牛の乳量が低いのはなぜですか?
A2 放牧草には水分が含まれていますが、泌乳牛の場合はそれでも少し不足してしまいます。放牧地には給水器を必ず設置しましょう。
放牧牛の乳量が低くなるのは、移動によるエネルギーと放牧草の栄養価が関係します。舎飼いに比べて、牛舎から放牧地への移動、放牧草を食べる時に移動する分、維持エネルギーは大きくなります。また、放牧草の栄養価は春先を除いて泌乳牛には十分ではなく、満腹になるまで採食しても不足します。その結果、産乳に使われる栄養素が少なくなるので、乳量が少ないのです。
放牧牛の乳量を上げる方法として、畜舎内などで補助飼料を併給する方法や、牧草栄養価の高い5月6月に泌乳最盛期をもってくる季節繁殖があります。
Q3 初産分娩月齢は早い方が良いのですか?
A3 育成期間が短いほど経費は抑えられます。初産分娩月齢と生涯乳量の関係では、23~24ヶ月齢で初産分娩させた場合が最も有利であるという研究成果があります。このためには育成初期の十分な発育を前提に、14ヶ月齢で受胎させる必要であり、高い育成管理技術が求められます。
近年、飼養技術の優れた哺育・育成預託センターが増えており、預託する経営者も多いです。あなたの地域にこのようなセンターがあれば、検討するのもいいかもしれません。
Q4 黄色ブドウ球菌による乳房炎は治りますか?
A4 感染力が強く、慢性化しやすく治りにくい乳房炎原因菌です。乳房や乳頭の皮膚表面、感染乳汁などに生息し、搾乳者の手指、清拭タオル、ミルカーユニットを通じて他の牛に次々と感染していきます。この菌に感染すると、乳房内深く侵入し、慢性乳房炎へと移行します。乾乳期の治療の方が搾乳期間よりも効果が見られます。
搾乳期の治療とともに乾乳期治療(乾乳期軟膏)を行うことが大切です。分娩後に定期的に乳汁の細菌検査を行い、完治しない牛は淘汰も検討します。バルク乳を、定期的にスクリーニングテストして、乳房炎菌のモニターをすることも予防に役立ちます。
Q5 搾乳時の前搾りはなぜ必要でしょうか?
A5 前搾りは、ミルカーを装着する前に乳頭ごと数回射乳する作業ですが、搾った乳汁はストリップカップで受けて下さい。
前搾りの目的として、①乳頭槽内の古い乳汁の排除、②異常乳の発見、③搾乳刺激の3つがあります。前搾り乳汁は汚れている可能性が高いので、取り除きます。ストリップカップに受けることで、床などが乳房炎菌で汚染されることを防ぎ、異常乳の発見につながります。
Q6 冬期間に風邪をひく牛が多いので、牛舎を暖かくする方が良いでしょうか?
A6 北海道の繋飼い牛舎は、ブロック造や木造断熱牛舎が広く建てられてきました。厳寒期には、窓や出入口を締め切った状態で、牛が飼われています。牛の体温で牛舎内は氷点下にはならず、ウォーターカップの凍結を防ぐ効果もあります。畜舎内の管理作業はしやすく、好都合ですが・・・
一方、牛が寝起きする環境としては大きな問題があります。冷湿な環境と換気不足が、牛の健康と生産に影響している可能性があります。畜舎内を密閉状態にしてたくさんの牛を入れておくと、発汗のために湿度は高くなり、壁や天井などで結露が発生しやすくなります。また炭酸ガスやアンモニアなど有害ガスも高まります。この環境では、呼吸器病も発症しやすくなります。
天候の穏やかな日中は、畜舎の換気を十分行うことが大切です。例えば、窓を少し開ける、ダクトファンがついているなら吹き出しを天井に向けて換気する等の方法があります。湿度が高く、悪臭漂う汚れた空気、寒冷ストレスを受ける牛舎で、乾物摂取量や乳量が低下することは十分考えられます。
また、牛舎を人為的に暖かくするのは、燃料代や断熱補強等に経費がかかります。しかも換気改善にはならず、問題の解決にはなりません。